犬がパンを食す。
「何だこれは?」
飼い主の男の方がおもむろに床に置いたもの。
「パンだと言っていたが…」
「気になるのはサイズだ。明らかにいつもより大きい。」
匂いを確かめる。
「いつも、あいつがくれるパンとは違う匂いがする。」
考えてみる。
「そもそもあいつがくれる物は、あまり信用出来ない。」
「一応、ちゃんと食べられる物をくれるが、ボス(嫁)がくれる物よりグレードが落ちる。」
「今これを食べて、"さっきもらったでしょっ!"なんてボスに言われ、美味しい物を逃したら……」
男の顔を確認してみる。
「嬉しそうにこちらを見ているが、自信があるのだろうか?」
「いや……この男は、だいたい嬉しそうな顔をしている。騙されるな!」
そういえば……
「以前、この男にもらった"白菜"。あれは酷かった。」
「うっかり齧り付いてしまったが、何の味もしない。」
千切るだけ千切って、結局捨てたことを思い出す。
「確かあの時も、嬉しそうな顔でずっと見ていたが……今回はどうだろうか?」
触ってみる。
確かにパンの感触だ。
「しかも肉球への心地よい低反発、この感触は美味しい物の確率が高い。」
「どうする?今のところ、ボスが戻ってくる気配はない。それに、戻ってきたところで美味しい物をもらえる保証はない。」
それなら、今コレを頂くか……。
最後にもう一度だけ、男の顔を見る。
「本当に大丈夫なんだな?」
男が頷いている。
食す。
「んっ?、ん〜ん?」
「あっ……そういう感じね。」
「不味くはない。」
「期待したほどでもないが、悪くはない。飼い主の男の方にしては、上出来か。」
「とりあえず、全部食べてしまおう。」
その時、玄関の方から音がした。
ボスの帰宅。
「しまった!」
パンを食べているところを完全に見られ、"あっ、パンもらってたの?"と何かを冷蔵庫にしまおうとする。
「違うんです、ご主人。これは、こいつが勝手に……」
「さぁ、お前からも事情を説明するんだ。」
男を見るとまだニヤニヤしている。
そして締まりのない顔で"何買ってきたの?"とボスに尋ねている。
ボスが冷蔵庫から出した物、それは
世界ランク2位の食べ物。
「マジですか?ご主人……」
既におやつをもらってるところを目撃されているので、世界ランク2位の食べ物は、再び冷蔵庫の中に消えていった。
「一口だけでも頂けないでしょうか?ご主人!」
しかし、"後で!今パンもらったでしょ!" の一言を残して、冷蔵庫の扉は閉された。
"飼い主の男の方は、信用するな!"
再び、そう心に刻みながら、男の方を見る。
何が楽しいのか?男は相変わらず嬉しそうな顔をしている。