犬と雷
雲行きが怪しくなってきた。
少し目を離した隙に、空は真っ黒になってしまった。
私が見てないところで、何が起こったのか、と思ってしまう。
遠くで雲を縫うように稲光が走り、それと少し遅れて雷鳴か響く。
先程まで生ぬるかった風が、冷んやりしてきた。
もう直ぐ雨が降り始める…。
急いでドッグランから引き上げ、家に到着。庭へ移動して、犬の足を洗っていると、ポツ…ポツ…。雨が降り始めてきた。
間一髪間に合った。
家の中へ入ると、次第に雨足は強まり、1分も経たないうちに、数メートル先の視界を遮るほどの勢いに変わっていった。
雨音が部屋中に響き渡り、全ての生活音を遮断する。
"異常気象"という言葉を納得させる迫力がある。
雨音の裏から、ジリジリと近づく雷鳴。
そして、
稲光と共に時折、爆発音をさせ始める。
ドーンっ、という音と共に、空が激しく光る。
犬が気掛かりだ。
ビビりの彼には、さすがにキツい。
あまり強い恐怖心を持ってしまうのは、精神的によろしくない。
急いでリビングに戻り、犬の様子を確認するが…
寝てる?
念のため体に触れてみると、ビクッとして目を開け、怪訝そうな表情でこちらを見る。
「なぜ起こした。」
何か悪いことをした気になり、「ごめん…」と謝るが、不機嫌そうに移動し、再び横になって寝始めてしまった。
雨雲レーダーを確認すると、我が家の上空は真っ赤。しかも、しばらく赤い状態が続くらしい。
雨足は一向に弱まる様子はなく、雷の頻度も次第に高くなってきた。
家を揺らす爆発音が頻発し始める。
もはや、まともに寝ていられる状況ではないはずだが…
随分とくつろいでいる。
…聞こえていないのか?
雷とか関係なく、ここまで大きな音と振動がある中で、なぜ寝ていられる。
しかも、なんだそのリラックスした体勢はっ!
これだけ大きな音がしているのに、危険を感じないのは、動物としていかがなものか。
なんか、腹が立ってきた。
おーきーろー!
何度も呼び掛けてみるが、全く反応しない。
おいっ!起きろ!
体に触れながら、もう一度呼び掛けてみるが、少し寝返りをうっただけ…。
と、その時
ドゴーンっ!ゴォォ〜
特大サイズの雷鳴が響き渡った。
「わっ!」
あまりに大きな音に、私が反応してしまった。
が無反応。
お前は、何者だ…。
あれほど大きな雷にも私の声にも、微動だにせず寝続ける。
逆に、ビビりだと思っていた彼が、少し大きく見えてきた。
彼の睡眠を妨げることは、誰にも出来ない!
「どいて」ピクッ!
2階から降りてきた嫁がソファに座るために、発した一言。
雷よりも遥かに小さい音量だが、その声には雷の音にはない"何か"が宿っている。
あれほど轟音の中でも寝続けていた彼が目を覚まし、すぐさまソファから降りる。
そして、嫁がソファに座るのを確認した後、その横に移動して添い寝を始めた。
やはり、我が家のボスは嫁ということか。
ソファにもたれて、犬を撫でている嫁を稲光が照らす。
その姿は、まるで
魔王…