余計なお世話
毎年、この時期になると、犬の水泳レッスンをする。
レッスンと言っても、教室に通うのではなく、大きなプールがあるドッグランへ行って、泳がせるだけ。
が、
我が家の犬は、泳ぐことが大嫌い。
水に浸かることは大好き。
泳ぐことも出来る。
それなのに、泳ぎたくないらしい。
嫌なら無理して泳ぐ必要ないのに、なぜ毎年プールへ連れて行くのか?
それは、
楽しいことをもっと増やしてあげたい、という余計なお世話だ。
完全に飼い主の自己満!
人間に対して、こういうことをすると、嫌われるので気を付けた方がいい。
お節介というやつだ。
犬にとっては迷惑な話だが、今年も付き合ってもらう。
必要なモノは施設に揃ってるので、荷物は着替えとタオルだけ。
車で15分ほどで、プールのあるドッグランに到着。
施設内は5エリアくらいに区分けされている。
・大型中型犬用広場
・小型犬用広場
・全犬種OK広場
・浅くて小さいプール
・大きなプール
泳ぎのレッスンをするには、"大きなプール"に行く必要があるが、まずは広場でウォーミングアップ。
ディスクやプラーをひたすら投げる。
いつもと違った環境なので、犬のテンションも高めだ。
う〜ん、いい調子!
しばらく広場で遊んだら、"浅くて小さいプール"へ移動する。
ボールを水の中へ投げ込むと、バシャバシャと取りに行き、楽しそうに浅瀬を跳ね回る。
足の着く場所なら、全然平気なのだ。
そして、ここからが本番。
受付で犬用のライフジャケットをレンタルして、装着する。なかなか似合っている。
大きなプールへ移動すると、既に何頭もの犬達が遊んでいた。
ボールを追いかけて、プールに飛び込んで、楽しそうに泳いでいる。
うちの犬も……
そう考えるだけで、楽しい気分になってきた。
大きなプールは、中心に向かって徐々に深くなっていく形状。
なので、外周はまだ浅く、走り回ることも可能だ。
まずは浅い所に誘導してみる。
すんなりプールに入ってきたが、やはり深い方へは行こうとしない。
明らかに、プール中心部を警戒している。
少し深い方へ移動して、呼んでみるが、困った表情をするだけで、動こうとしない。
やはり、足が着かない場所は、嫌みたいだ。
恐らく、このまま待っていても、自分から泳ぐことはないだろう。
…仕方がない。
横にいた犬をそっと抱き上げ、そのままプール中心部へ移動する。
そして、ゆっくりと犬を離すと、見事にプールサイドまで泳ぎきった!
ここぞとばかり、犬を褒めちぎる。
グリグリ、ゴソゴソしながら、ひたすら褒めまくる。
「おりこーさん、でちたのー、おりこー」
我が家の犬は、褒められることが大好きだ。
やったことに対して報酬があると、犬はまた同じ行動をしてくれる…はず。
次はもっと積極的にプールに向かってくれる…はず。
これを何度も繰り返したら、きっと泳ぐことが楽しくなる…はず。
「よしっ、もう一回やろうか!」
ん?あれっ、どこ行った?
さっきまで横にいた犬が見当たらない。
辺りを見渡すと、
……。
プールサイドの逆側まで逃走し、怪訝そうな表情でこちらを見ている。
飼い主と犬とのこの距離。
どれだけ、やりたくないのかが伝わってくる。
…そっか、やっぱり嫌か。
もう、しないからこっちおいで。
やや怒り気味の犬をなだめる。
そして、ライフジャケットを外し、大きなプールエリアを後にする。
再び広場へ行くと、機嫌を直したのか、楽しそうにディスクを追いかけ続けていた。
やはり、こっちの方が好きなんだね。
"絶対に楽しいから、やってみなよ"
自分が楽しいと思うことは、ついつい他人に勧めたくなってしまう。
それ自体は悪いことではないが、そういう時こそ、冷静に相手のリアクションを見る必要がある。
"お前が楽しいと思うことが、皆んな楽しいと思うなよ!"
プールサイドで犬にそう言われた気がした。