雨ニカケル
昨日は一日中雨に降られた。
それなのに今日もまた雨。
確か一昨日も雨だった気がする。
天気予報を見ると明日以降も傘マークが並ぶ。
いつになったら、外に出られるのだろうか……。
彼に事情を説明してみるが、玄関でずっとこの状態である。あまり伝わってないらしい。
午前11時、いつもならドッグランに行く時間だが、雨足が弱まる気配はない。
何度も外を確認してみる。
そんなことをしても雨が止むはずもないが、ついついやってしまう。
「今日も出掛けないのか?」
しびれを切らした彼は、不審な眼差しをこちらに向けてくる。
カーテンを開け外を見せながら、もう一度彼を説得してみる。
「今日は無理だ。止むまで待とう。」
彼は外と私を交互に見た後、その場にうつ伏せになった。
納得はしてないが、察したのだろうか?
その後は何も要求してこなくなった。
しかしうつ伏せの状態のまま、不貞腐れた表情で、ずっとこちらに視線を送っている。
しばらくして、私がトイレに立ち上がると、"ガタンっ!" 慌てて彼も立ち上がる。
「行くのか?」
まるで犯罪者を追う防犯カメラの様に、彼の視線が私を追尾する。
そして私がトイレに入っていくのを確認すると、残念そうな表情でまた元の場所に戻る。
私が動く度にこの反応を繰り返すが、無理なものは無理。雨足は強いままだ。
また天気予報を確認してみると、夜までビッシリの傘マーク。
恐らく、雨足も弱まることはないだろう。
しかもこんな日が連日続いており、明日以降も晴れることは、しばらくなさそうだ。
彼は相変わらず、うつ伏せのまま私を凝視している。
このままでは、少し可哀想な気もする。
なんとか気を紛らそうと、色々与えてみるが反応しない。
「分かってるだろ、それじゃない!」
彼は目の前のおもちゃから目を逸らし、あからさまな意思表示をする。
外へ行く以外に動く気はないらしい。
しかしここで引いてはいけない。
"思い通りにいかないこともある"と、しっかり教え込まなければいけない。
今はまさにそのタイミングなのだ。
もう一度、彼に外の状態を確認させながら
「雨、あーめ。雨だから行けないの!」
"雨が降っている"という状態を彼に認識させようと、何度も繰り返す。
すると、ずっとうつ伏せだった彼が、スッと立ち上がり移動し始めた。
「分かった、もういいよ……」
ヨタヨタと歩いている後ろ姿は、そう言っているかのようだった。
やっと諦めたか?そう思ったが……
どうやら私は、彼の意思を甘くみていた。
今度は玄関の下まで降りて、扉の前で鎮座し、先程よりさらに強い視線をこちらに送り始めた。その眼差しには "絶対に引かない" そんな思いが宿っている。
もう一度説得しようと"雨だからダメ"を連呼してみるが、今度は微動だにしない。
「もう、ここから一歩も動かない!」
そんな彼との睨み合いがしばらく続いた。……本気らしい。
どうやら、諦める気はないみたいだ。
「……分かった。行くか!」
負けた。ダメな飼い主だ。
天気予報では、夜まで雨は降り続くらしいが、もはや関係のないこと。
彼は玄関を開けた瞬間に「ワンっ!」と雄叫びを上げ車に駆け込む。
そして彼を乗せた車は、雨のドッグランへと走り出した。