犬が とうもろこし を食す
連日、暑い日が続く。夏真っ盛りだ。
こうも暑いと出掛けるのも億劫になる。
なのに、夏は満喫したい。
何もしないで夏が終わると、なぜか損した気分になるからだ。
頑張る気はないくせに、夏らしいことを何もしないで、季節が変わってしまうのも嫌なのだ。
何か手軽に出来る夏らしいことは……
とりあえず食べ物に依存してみよう。
そんな思いで近場のスーパーを訪れると、至る所に夏を匂わせる食品が並んでいる。
スイカ、ナス、トマト、ズッキーニ、ピーマンなどなど、どれもこれも夏!
見ているだけで満足しそうだが、しっかり夏をするためには、何か買って帰らなければ。
しばらく物色していると、"特売品"の文字が目に入る。
そこには、山のように積まれた、
とうもろこし。
これも夏!
見ているだけ夏を感じることができる野菜だ。
とうもろこしの山に見惚れていると、何故か犬のことが頭をよぎる。
そういえば……あいつに とうもろこし を食べさせたこと無いな。
どんな反応するのだろう?
買い物を済ませて、家に到着。
いつものように、犬が大喜びで出迎えてくれる。
ピョンピョン飛び跳ねている犬を落ち着かせ、スーパーで買ってきた物を片付ける。
そして、準備に取り掛かる。
とうもろこしを茹で始めると、犬がキッチンを見上げて、鼻をスンスンさせている。どうやら、既に未知の食べ物を察知しているようだ。
粗熱が取れるまで冷まして、床に敷いたビニールの上にとうもろこしを置く。
こっちおいで〜!
遂に、とうもろこしとのご対面だ。しばらく、この状態で睨めっこが続く。
初めての食べ物に対しては、いつもこうなる。警戒心が強いのだ。
……。
警戒心が強いのだ……
おいっ!
この時は、本当に長時間睨めっこしていた。食べ物だと認識しているが、どうしたらいいのか、分からない感じだ。
見かねた嫁が、一粒取って与えてみる。プチっと一粒取った瞬間、彼がビクッとする。
"えっ?取れるの?"
そして、入念に匂いを確かめ、食べてみる。
パクッ!一口食べさせて、動機付けをする。これで食べ始めるだろうと、とうもろこしを再度床に置く。
その後は、積極的に匂いを嗅ぎ始めたが、それでもなぜか触れようとはしない。
そして、彼は床に置かれた とうもろこし と飼い主を交互に見始める。
んっ?
もう一度、嫁がとうもろこしを持つと、やっと齧り始めた。
食べるから持ってろ、ということか。しかし、ずっと持ってるのは面倒だ。食べれるなら自分で食べて、ということでまた床に戻すが……。
直ぐに"持ってくれ"の要求を始めてしまう。
なぜ床の上で食べない?
食べられるだろう?
今回は甘やかさず、しばらく様子を見ることにした。
ずっと要求を続けているが、ひたすら無視。再び、とうもろこしとの睨めっこが続く。
すると、
たまりかねた彼は、とうもろこしにアタックを開始する。
コロコロコロ〜
食べようとしても、舐めようとしても
コロコロコロ〜。
なるほど、そういうことね。
どうしても、転がってしまうらしい。
短く切り過ぎたことも災いして、手で押さえることもできない。
コロコロ転がる度に、不機嫌そうな顔でこちらを見てくる。
"なんとかしてくれ!"
仕方なく、また とうもろこし を持ってあげると、やっと本格的に食べ始めた。
が、
手で持って食べさせると、
齧っては少し回す、齧っては少し回すの繰り返しになる。
これが、かなり食べづらいらしい。
"回す" と "食べる" の波長が合わず、彼の食が進まない。
うんざりしたのだろうか、また食べるのをやめてしまい、今度はこちらと床を交互に見始じめた。
なんだ?……まさか。
"やっぱり床に置いてくれ"
おいおい、また転がるだけだ、やめておけ。そう思ったが、
こいつはボーダーコリー、賢い犬のはず。
もしかしたら、やってくれるかも……。
今度はうまく食べてくれると信じて、
とうもろこしを床に置く。
コロコロ〜、コ〜ロコロ〜〜。
とうもろこしは、さっきよりも勢いよく、綺麗な回転をしながら、ビニールの外へと転がっていった。
彼がこちらに視線を送ってくる。
……もう、やめよう。
ヒトにも犬にも向き不向きがある。
夏の楽しみ方は、いくらでもある。
美味しいものは、他にもたくさんある。
無理をせず夏を楽しもう!
夏の本番は、まだまだこれからだ。